ちゃんと聞いてたんだね

きみは、予定日を大幅に遅らせ、ゆっくりと生まれた。

成長もゆっくりで、少し心配するくらい、発語の遅い子だった。

旦那はきみがまだ言葉の出ないうちから、

「大きくなったらママを大事にするんだよ」

「ママはきみのことを、大切に育てて、産んでくれたんだからね」

と、毎日のように言っていた。

不安の中で過ごした毎日

夫婦ともに、おそらく不安の中で過ごした毎日だったが、その不安を言葉にしてしまうと、もう立ち上がれないような気がして、お互い口にするのは前向きな言葉だけにした。

時折、友人が私たちの少し異常なまでのポジティブな声掛けに心配したことがある。それくらい、私たちは気を張り、気を揉んで子育てに没入していたのだと思う。

なんとかことばが出てくるようになり、日常のいろいろなことや、身体の大きさにはまだまだ同年代の子たちと差はあるにせよ、幼稚園に通えるようになったころ、きみと出かけたことがあった。

私はその日も、まだひとりで着替えるのに時間がかかってしまうとか、食べ方が汚いとか、四六時中、子育てに様々な不安を抱えていた。

家の近くにある、カフェでご飯を食べ、絵本を読み聞かせしたりして時間を過ごす。そのカフェはとても子どもに寛容な場所で、こじんまりとした店の中に、子どもの喜びそうなものがあちこちに飾られていた。

それから、子ども服を見るために、電車に乗って、二駅ほどの距離の店に向かった。電車は私たちの乗った駅が始発で、混み合う時間ではなかったが、それなりに人が並んでいた。

電車の扉が開いた途端、きみが走り出し、アッ、と言ってその後を追いかける。きみはふたつ分の席を手で陣取るようにして立っていた。

もう大丈夫

「ママ」

私は涙をこらえ、ありがとう、と言ってそこに座った。

「パパがね、いつも言ってたんだよね、ママを大事にしなさい、優しくしなさいって。ちゃんと聞いてたんだね。」

我が子の頭をなでながら、報われたような気がした。

どんなに不安なときでもポジティブな声掛けをしてい夫婦のことばは、きちんときみの耳に届いていたらしい。

私は、きみの成長が、とても楽しみになった。

関連ワード:

この記事が気に入ったら
いいね!してね!

最新情報をお届けします